最後のブログ  執筆者 日々わくわく子(時々翻訳者)

何ともはや最後のブログになってしまった。書き始めたころの気負い、とまどい、迷いが、いつのまにか、居直りとともに慣れへと転向していた。ブログ執筆に関して言えば、一年は早い。いや、そもそも一年は早いものなのだ。(一年はやはり長いだのとゆずらない部分があるが。)
総じて言えば、この一年、読んだ本の感想が多かったような気がする。本当はスポーツ観戦もする。 ナイターだってラジオで聞くし、大相撲の場所中は誰が優勝するかで二週間頭の中が興奮状態、駅伝も面白いし、競馬も馬好きだから時々見たりしている。なのに、書かなかった、書けなかった。ウンチクを傾けるところまでいかない、筆が動かなかった。
なので、最後にまた最近の読書経験について。とても面白い本を読んだ。奥泉光氏の「雪の階」。階とは「きざはし」と読む。5センチの厚さの重たい単行本を持ち歩いては電車の中で読んだ。すると、スマホピープルだけではなく、結構文庫本を読んでいる人に気づく。さて肝心の内容について、昨年偶然読むにいたった三島由紀夫の「春の雪」とちょっと設定が似ている。時代は昭和初期、華族階級の物語。伯爵家の美しい令嬢が親友の不審な死を推理して行き、複雑な迷路に踏み込んで行くミステリーである。彼女の冷静かつアクティブなところが、「春の雪」に出てくる美しいだけの華族のお嬢様とは違っているのが楽しい。そして、この美人令嬢の前に、眉目秀麗の陸軍将校達が登場するが、この当たりも三島の影響かなと勝手に思う。段々と読み進んで行く内に、昭和十年に起きた二・二六事件と絡まっているのが分かった。あーそうなのか、タイトルの「雪」の意味が理解できた。(「階」の意味については本を読んでください)。それから、何と言っても奥泉氏の特異な緻密な文体が面白い。聞いたこともない漢熟語が沢山出て来る(これも三島の文体を思い起こさせる。Googleで調べながら読んだ)。慣れるまでちょっと時間がかかった。ネタバレをしない程度にもう少し書いてみると、時代は日本が徐々に戦争に突入して行く頃で、軍部や国家主義者が台頭し、天皇機関説に絡む政治抗争、極右政治思想の持ち主達の反天皇制思想まで出て来るのには恐れ入った。作者の創造力、洞察力の豊かさに感服。戦前のこの時代、まだ人々が普通に生活して過ごしていた時代にノスタルジー的なものさえ感じる。今だからそんなことが言えるのであって、この物語の優雅な階級の人々も数年後には戦争に巻き込まれ、戦後は貴族制も廃止されて、どんな運命を辿って行ったのだろうと考える。最後まで、何とも不可思議な文体に巻き込まれながら、なにしろ推理小説なので、次はどうなるのかと知りたくて読み進んだ。ついでに言えば、あっこれ漱石のあそこに似ているなと思う部分もあった。三島由紀夫といい、やはり、文豪の影響はすごいのだなと思った。
最後に、翻訳文以外は文章をまとめて書く経験があまりなかったので、この一年はよい経験になったと思う。御礼申し上げます。