ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』執筆者:Penny(翻訳ジム修了生)

 10代の頃にはじめて手にしてから毎年とまではいかないけれど、なぜかこの時期になると読みたくなる本がある。
 そもそも比べるものであるかは別として、これまでに観た映画、聴きたくて聴いた曲、読んだ本の数を比べると、読んだ本の数が間違いなく圧倒的に多いのに、好きな映画を訊かれるより、好きな音楽を訊かれるより、好きな本を訊かれると困ってしまう。映画や音楽鑑賞に比べ、私にとって読書はプライベートなもので人と一緒に楽しみたいものではないからというのが、理由の一つだと思う。そんな中で『停電の夜に』は、めずらしく私が何度か人にすすめたことのある小説だ。若い夫婦が毎晩1時間の停電の夜にロウソクを灯してお互い隠しごとを打ち明け合う、たった30ページほどの短編だけれど、その短さが信じられないほど完璧な物語で、読む度にフルコースを食べたような気持ちになる。
 『停電の夜に』を読んだきっかけは、江國香織さんがおすすめの小説として紹介していたからだと今の今までずっと思っていた。2002年に新潮社から発売されたムック本『江國香織ヴァラエティ』の中の「作家の本棚」というコーナーで取り上げられていて知ったはずだった。けれど今日ふと気になってページを開いてみたら記憶ちがいだったことがわかった。このムック本でなくても、どこかできっと書かれていたはずだと思って、何冊か江國さんのエッセイを本棚の奥から引っ張り出してみたけれど、残念ながら見つけられなかった。その代わりと言ってはおかしいけれど、『泣かない子供』の中で、翻訳ついて記された一文が目に留まったので、ここに残しておきたいと思う。
「作者と訳者の間には、翻訳引力が存在するらしい」