阪急電車色  執筆者:Penny(翻訳ジム修了生)

一年ほど前に数ヶ月悩んだ挙句、ロースターを手にいれた。一人暮らし用の決して広いとは言えないキッチンに置くにはコンパクトとは言えないサイズのそのロースターで焼いた鶏肉や秋刀魚は、塩コショウしただけでも驚くほど美味しくて、とても満足している。買うのを悩んだ理由は、3つ。1つ目がそのサイズと置き場所問題。45cmも奥行きのあるロースターが我が家のキッチンにすんなり収まるとは思えなかったのだ。2つ目が機能的にはすでに家にあるもので事足りていたこと。家には魚焼きグリルとコンベクションオーブンがあるし、レンジにもオーブン機能がついている。つまり肉も魚も充分焼ける。ロースターには燻製機能がついているけれど、買ってすぐは嬉しがって使っても、すぐ使わなくなることは目に見えていたので、あくまでオマケだと思っていた。そして3つ目が色。自分でも不思議なことに、買うのをためらった一番大きな理由がこれなのだけれど、本体が「阪急電車色」なのだ。有川浩の小説「阪急電車」は映画化もされたので、関西に足を運んだことがなくても、特に電車好きでなくても、車両の色を目にしたことがある人は多いかもしれない。ちなみにロースターのメーカーはブラウンだと言って販売しているし、赤みの強いチョコレート色とか、あずき色とか、小説『阪急電』で表現されたように、えんじ色とも言えるかもしれないけれど、私の目には阪急電車色以外何色にも映らない。実際関西出身の友人が家に来てそのロースターを見ると、皆口を揃えて、阪急電車色だと言う。今思い返してみれば、少なくとも小学校に入った頃には、私はあの色を阪急電車色として認識していたし、三年生にあがる時に転校した先の小学校では、校庭から道を一本挟んだところに線路が走っていたこともあって毎日目にするその車体が何色なのか友達と話し合い、結局のところあれは阪急電車色だということで落ち着いた記憶がある。間違いなく日常の一部として存在していたその色を、子供のころの私は好きではなかった。何かと似た色を見ては、阪急電車色だと少しけなす気持ちを込めて呼んでいた。今はあの車体を見ると、地元に帰ってきたと安心感を覚えるので愛着はあるのだと思うけれど、だからと言って部屋に置きたい色ではなかったあの色が、正式には、「マルーン色」と言うということも、さっき知った。自分でも何が言いたいのかよくわからなくなってきたけれど、一年間阪急電車色のロースターと生活していてわかったことは、この色は気づけば生活に馴染むなかなか優秀な色だということ、そして後から気づいたのだけれど、数年前に母から贈られた別メーカー製の電気圧力鍋もよく似た色だということは日本メーカーではそれなりに市民権を得ている色なのかもしれないこと、そしてそれでもやっぱり阪急電車色だということだ。