監査人は“聴く人” 執筆者:流浪の会計士

 公認会計士の仕事は、財務諸表の監査(Audit)、税務(Tax)及びコンサルティング(Consulting)の3つの領域に大別されます。わが国では公認会計士法により、財務諸表の監査は公認会計士の独占業務とされており、監査を行う公認会計士は監査人(Auditor)と呼ばれます。
 監査論の教科書によると、Auditという言葉は、ラテン語の「聴く」を語源としており、例えば、中世の英国で行われていた自治体(市や町)の会計監査は、管理する官吏及び市民の前で公に行われ、財務官が会計記録を読み上げるのを監査人が聴取していたようです(注)。
 では、現代の企業の財務諸表監査はどうかというと、公衆の前で聴取することはしませんが、企業内部の多くの人からさまざまな話を聴きつつ監査を進めていくという意味で、まさに“聴く”行為は今も生きています。
 私の経験では、企業のトップである社長はもちろんのこと、経理・財務、営業、製造、人事・総務・法務関係の各担当役員や部長などに会って、企業を取り巻く環境、企業内部で起きている変化、業績の見通しや今後の企業が進む方向性など、企業経営に関連するあらゆる話を聴くとともに、経営者を監査する立場にある監査役にも会って、ガバナンスや会計・監査に関連する問題点について意見交換をしていました。そして、これらの人たちから聴いた話が、財務諸表の数字にどのような形で表れているか、あるいは今後表れてくるかを考えたうえで、重点的に監査する項目を決めていくのです。また、役員や部長の話を聴く以外にも、例えば、会計帳簿を見たり、社内資料を読んだりする場合には、係長や主任などのより実務に近い担当者から説明を受けることもごく普通にありました。おそらく多くの監査人がこのようなことを行っているはずです。
 監査人(あるいは公認会計士)といえば、書類の山に囲まれながら、黙々と会計帳簿をチェックしているような印象を持っている方もいるかと思いますが、実はいろいろな人から話を聴くことも、監査を進めていくうえでとても重要な仕事なのです。

(注)中央監査法人訳、モントゴメリーの監査論(第2版)、中央経済社、平成10年、p.12