色とりどりの「恋はみずいろ」 執筆者:南條 涼子(翻訳ジム修了生)

高校生のころ、古き良きシャンソンの雰囲気とフランス語発音に魅せられたのを機に、全く歌詞を理解せぬままにフランスの音楽を好んで聴くようになりました。そして気付いたら、大学の第二外国語でフランス語を専攻していました。お世辞にも優等生とは言えない学生でしたが、お気に入りの楽曲を歌詞とともに味わえるようになったのは喜びで、授業で「枯葉」が課題となった際に、ゆきすぎた意訳をして担当教授に苦い顔をさせてしまったこともありました。原語の理解も疑わしいのに、日本語の歌詞を作るかのような気持ちが先走ってしまったのです。

その当時、「そういえば、よく晴れた日に自転車に乗りながら聴いていたお気に入りのあの曲は、一体どういう歌詞なのだろう?」という純粋な興味から訳してみたのが、世界中で親しまれている名曲、“L’amour est bleu”です。原題は知らなくとも、英語版の“Love is blue”や森山良子さんらが歌われている日本語版の「恋はみずいろ」ならご存知の方も多いかと思います。

今回は、当時そして改めて今、フランス語・英語・日本語の歌詞を比較して感じたことを述べていきます。その前にまず、出だしから最初のサビまでのフランス語歌詞とその英語直訳(カッコ内)を記します。

”L’amour est bleu (Love is Blue
〈Aメロ〉
Doux, doux(Sweet, sweet)
L’amour est doux(Love is sweet)
Douce est ma vie(Sweet is my life)
Ma vie dans tes bras(My life in your arms)
Doux, doux(Sweet, sweet)
L’amour est doux(Love is sweet)
Douce est ma vie(Sweet is my life)
Ma vie près de toi(My life close to you)

〈Bメロ〉
Bleu, bleu(Blue, blue)
L’amour est bleu(Love is blue)
Berce mon cœur(Cradle my heart)
Mon cœur amoureux(My heart in love)
Bleu, bleu(Blue, blue)
L’amour est bleu(Love is blue)
Bleu comme le ciel(Blue like the sky)
Qui joue dans tes yeux(Which plays in your eyes)

〈サビ〉
Comme l’eau(Like water)
Comme l’eau qui court(Like running water)
Moi, mon cœur(Me, my heart)
Court après ton amour(runs after your love)“

以上が、1番のサビまでの歌詞です。
「恋はあまい」という歌い出しからAメロが始まり、恋の甘美さが謳われます。そしてBメロは「恋はみずいろ」。「この恋心はまるで澄みきった青空のよう」といったところでしょうか。そしてサビは「わたしの恋心は、流れる水のようにあなたの愛を追い求める」という内容になっています。ちなみにこの後2番では「恋はグレイ」となり、失恋後の心に灰色の嵐が吹きすさぶ様が描かれ、3番でめでたく復縁できたようで、また「恋はみずいろ」となります。

フランス語歌詞の大意を踏まえたところで、次は同じ部分のフランス語・英語・日本語の歌詞を並べ、3つの観点から考察をしてみます。

【仏】
Doux, doux
L’amour est doux
Douce est ma vie
Ma vie dans tes bras
Doux, doux
L’amour est doux
Douce est ma vie
Ma vie près de toi

Bleu, bleu
L’amour est bleu
Berce mon cœur
Mon cœur amoureux
Bleu, bleu
L’amour est bleu
Bleu comme le ciel
Qui joue dans tes yeux

Comme l’eau
Comme l’eau qui court
Moi, mon cœur
Court après ton amour

【英】
Blue, blue
My world is blue
Blue is my world
Now I‘m without you
Gray, gray
My life is gray
Cold is my heart
Since you went away

Red, red
Myeyes are red
Crying for you
Alone in my bed
Green, green
My jealous heart
I doubted you
And now we‘re apart

When we met
How the bright sun shone
Then love died,
Now the rainbow is gone

【日】
あおい
そらが
おひさま
に とける
しろい
なみが
あおい うみ
に とける

あおい
そらは
わたしの
こいの いろ
あおい
うみは
あなたの
あいの いろ

こいは
みずいろ
そらと
うみの いろ

※フランス語と英語の母音に相当する部分を赤字表記にしています。

①歌詞の情報量 「フランス語≒英語>>日本語」
まず大学生当時に驚いたのは、フランス語歌詞に含まれる情報量の多さでした。特にサビの「コムローキークー」が「水のように流れゆく」という意味であることは衝撃でした。同じ部分の日本語歌詞は「みーずーいーろー」であることからしても、情報量の違いは明らかです。これは、日本語とフランス語や英語との「音節」の仕組みの違いに起因しています。日本語は1子音+1母音(つまり平仮名1文字)が1音節となっていますが、歌は基本的には1音節ごとに1つの音が割り振られるため、「恋はみずいろ」の歌い出しの「あおいそらが」も、6音節で6音となっています。一方で、言わずもがなですが、フランス語や英語は1つの母音に複数の子音がついており、ほとんどの単語が1・2音節で構成されているため、同じ6音節でも“Doux, doux, l’amour est doux ”や “ Blue, blue, my world is blue”といったように、含まれる情報量が多くなっています。これはどの曲にも共通することで、そう考えると、海外の曲の日本語カバーの歌詞が概して原語の詞とは全く違うものとなっていることも頷けます。

②「韻を踏む」は世界共通
次に各言語で、韻が意図的に使われている点に注目しました。
フランス語版のAメロではキーワードの“doux(ドゥー)”と“amour(アムゥー)”で韻を踏んでおり、 “bras(ブラ)”と “toi(トワ)”も正確には違いますが似たような発音になっています。Bメロでは “eu(ウ)”の母音が頻出し、サビでは “o(オ)”と“eau(オー)”など似た母音が多く使われています。
英語版でも、“gray”と“away”、“bed”と“red”、“heart”と“apart”、“shone”と“gone”など、フレーズ終わりで韻がちりばめられています。日本語版も、「あおい」と「しろい」が対になっていたり、フレーズ終わりが「に とける」や「~の いろ」でそろっていたり、と統一感がみられます。こうした点に注目して聴き直してみると確かによくきこえがよく、リズムの重要性を再認識できました。

③原語をどう咀嚼するか、は国によって違う
フランス語版は先ほども述べた通り、1番:恋の喜び、2番:恋わずらい、3番:再び喜び、という展開ですが、英語版は2番3番も1番と似たような歌詞で、一貫して失恋の悲しみを謳っています。おそらく英語とフランス語の「ブルー」の違いによるもので、フランス語版の「ブルー」が爽やかな「みずいろ」であるのに対し、英語版の「ブルー」は、憂鬱さを象徴する色として捉えられているようです。また、フランス語版には「ブルー」と「グレイ」しか出てきませんが、英語版はとてもカラフルです。あなたがいなくて「ブルー」。心がひんやりとして「グレイ」。泣いた後には目が「レッド」。嫉妬心は「グリーン」。そしてひとりの夜は「ブラック」、と同じ悲しみが多彩に表現されています。そして、日本語歌詞は圧倒的に量が少ない分、起承転結もなく出てくる色も白と青のみですが、フランス語版に描かれる「爽やかでまっすぐな恋心」がしっかりと生かされているように感じます。情景が目に浮かび、メロディともよく合っているこの日本語詞は、個人的にはとても好きです。

歌詞の翻訳は、「絶対的な文字制限があり、原語のコンセプトを生かしながら端的な表現を考えなければいけない」という点において、字幕翻訳とよく似ているように思います。よく一般の方が洋楽などを和訳しているサイトを興味深く見ているのですが、私もいつか今回の考察を踏まえた上で、好きな楽曲の日本語訳作成に挑戦してみたいです。

 

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