バレエと翻訳(2) 執筆者:片山由美子(弁護士)

まったくの私見&偏見である「バレエと翻訳」の共通点について、引き続き述べたいと思います。なお、ここでいうバレエとは「クラッシクバレエ」であり、翻訳は「産業翻訳」であることをご了承ください。

第三に、「積み重ね」が重要であること。日本人初の世界的バレリーナといえる森下洋子さんは、「バレエは一日稽古を休めば自分でわかり、二日休めば仲間にわかり、三日休めばお客様に悟られてしまう世界」とおっしゃいました。毎日の積み重ねが重要であることを端的に表わした至言だと思います。私が知る限りでは、現在のプロのバレエダンサーが一日も休まずにレッスンをしているということはないように思いますが、トッププロでも一年中地道に同じレッスンを繰り返し行う様は、非常に美しい精神と肉体の修行です。あの丹念な積み重ねの上にだけ、踊りの神様は宿るのだと思います。翻訳に修行とまでいえる鍛錬が必要なのか、私にはまだ分かりませんが、やはり日々知識を蓄積していくこと、テクニックや語感を磨き続けていくことは必須です。ただ、プロの翻訳家になった後は、仕事を離れて訓練を積むことは結構難しく、仕事に追われてOn the Job Trainingが中心となってしまうことも多々あります。そのような中で試行錯誤して得たものを、一回限りにせずに継続して積み重ねていくことは重要であり、それが「経験」といわれる付加価値なものにつながっていくのだと考えています。また、思い切って時間をつくり講座などに参加して、自分が蓄積してきたものを客観的に見直し、再度磨きをかけることも時には必要かと思います。

第四に、「完全なもの」がないこと。バレエも翻訳も「これで完璧」というものはないと思います。バレエは芸術なのでそもそも完全なものは存在しませんが、翻訳も翻訳者の数だけ翻訳物があり、どれかが完全ということはないでしょう。そして、バレエも翻訳も存在しない「完全なもの」を目指して日々努力するところに面白さがあるのだと思います。存在しないものを求めるのはおかしいような気がしますし、完璧を求めることは良くないことだとも言われていますが、それでもやはり、その時点で自分が想像しうる完全な姿を求めることは必要だと私は思います。その時点で自分ができること以上のものを作り出すことはできないかもしれませんが、その先にある完璧なものを目指して、現時点との差を埋めていく努力は、上達のためには必須だと思います。また、それが自分の選んだ道を極めていく醍醐味なのではないでしょうか。「極める」のはたぶん来世以降になると思いますが。

かなり手前勝手なことを書きました。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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