語順 執筆者:片山由美子(弁護士)

法律分野の翻訳では、英語の語順に合わせた日本語訳がよいという意見がかなりあります。非常に悩ましい点です。例えば、「Seller shall deliver the Product to Buyer within ten (10) days from the designated date in accordance with the procedure set forth in the Attachment A made a part of this Agreement.」という文章を訳す場合、英語の順序を重視すれば、「売主は、本製品を、買主に、指定日から10日以内に、本契約の一部をなす付属書Aに定める手順に従って引き渡すものとする。」となります。確かにこのように訳すと、依頼者が原文と翻訳文を照らし合わせて読む場合には、比べやすくなります。法律実務の現場では、このような訳し方をした方が便利なのかとも思います。ただ、日本語だけを読んだ場合には、あまりスマートな文章とはいえないでしょう。
私は、日本語の作文作法に則った文章にまで直すのが翻訳ではないかと考えています。その方が、日本語だけを読んだ際に、リズムが良く理解しやすいからです。それでなくても契約書等の法律文書は読みにくいので、少しでも読みやすくする努力の1つとして、リズム良く読める文書を書くことを心がけています。
例えば、上記の英文は、「売主は、指定日から10日以内に、本契約の一部をなす付属書Aに定める手順に従って、買主に本製品を引き渡すものとする。」と訳すのも一案です。法律文書では、主語を先に書くのが鉄則なので、それは守ります。その後は、まず「いつ、どこで、だれが、だれに、なにを、どうした」の語順を守り、前後で入替え可能な語句は、長いものが先になるように入れ替えます。この文章では「本契約の一部をなす付属書Aに定める手順に従って」が長いので、これを前に出して「売主は、本契約の一部をなす付属書Aに定める手順に従って、指定日から10日以内に本製品を買主に引き渡すものとする。」の方が良いかなと思います。
このあたりになると好き嫌いの問題になってきます。ちなみに、英語の語順を重視する講師の授業を受けたことがありますが、その講師も「リズムは重視する。」とおっしゃっていました。となると、結局英語の語順どおりではなくなるのではないかと思います。私は、本田勝一氏の著書「日本語の作文技術」(講談社)をベースにして日本語を書いています。思考錯誤は続きます。

 

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