翻訳と校正と私 執筆者:城野卯響子(翻訳校正者)

こんにちは、翻訳校正者の城野卯響子です。この4月から「英文教室」オフィシャルブログ リレーエッセイの第三週目を担当させていただくこととなりました。至らない点が多々あるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

私は「翻訳校正者」として主に《産業翻訳》の校正を行っています。そこで、まずは「翻訳校正」の役割について、簡単にお話ししましょう。

一般に、産業翻訳は【翻訳者による翻訳】→(必要に応じて)【チェッカー/校閲者による内容の査読/修正】→【校正者による校正(初校)】→(必要に応じて)【DTP編集者による版下作成】→【校正者による再校】…というようなプロセスを経て、クライアント様に納品されます(このプロセス以外に工程が入ったり、順序が変わることもあります)。

「翻訳者による訳文」は、もちろん正確でミスがないのが前提なのですが、そこは人間ですもの、そうでないケースもままあります。そこで、念のため「ミスがないとは思うけど万が一のためにチェックしてね」と、翻訳会社様からチェッカーさんや我々翻訳校正者に指令が下りてくるわけです。通常は、校正の段階ではMicrosoft WordやExcel、PowerPoint等で作られた原稿の「可読性を高める」作業を行います。文章の内容や表現を修正することは行いません(原則として、それはチェッカー/校閲者の担当となりますが、実際には「訳文の修正も校正でやってね」、というケースはよくあります)。

この翻訳校正の主な役割である「可読性を高める」とは、つまり「読みやすい文章・画面にする」ということです。
具体的には、
◆用語/文体の統一
専門用語のぶれがないか、文体は統一されているか、送り仮名等は統一されているか
◆約物/記号類の統一
句点・読点/記号類のぶれがないか、間違った使用を行っていないか
(例えば、全角の※が英文でそのまま使われている、等をチェックして修正)
◆書体等の整理
数字の処理、斜体、太字、見出しのレベルなどが正確に使われているか
(例えば、英文で書籍タイトルを示す斜体が、和訳文でもそのまま斜体となっている、等をチェックして修正)
◆数値/略号等のチェック
元原稿を正確に反映しているか
(例えば、「NI-IK」が「NHK」になっている、等をチェックして修正)
◆日本語/英語として不自然な部分、英文のスペルなどのチェック
助詞の間違い、呼応表現の間違い、明らかな単語の間違い
(例えば、校閲者の修正で削除したはずの部分がそのまま残っている、等をチェックして修正)
◆レイアウトなどのチェック
原稿のレイアウトを反映しているか、半角・全角のスペースが混在していないか、不要なスペースが残っていないか
(例えば、「軽量の ファブリック を用いた ベース レイヤー」(原文の単語間のスペースをそのまま残している)、等をチェックして修正)
…といったことをちまちまと正していきます。

中にはクライアント様から「スタイルガイド」「文書規程」等として、表記上のルールを個別に指定されることもありますので、その場合は、翻訳文がそれに沿ったものとなっているかもチェックします。

こうした事柄を修正するだけでも、かなり訳文の見栄えはよくなります。原文の影響(ターゲット言語では使用されない記号類や言い回しなど)が取り除かれ、自然で読みやすい訳文に近づくように思います。(この意味で、翻訳校正者は「産業翻訳のお掃除屋さん」なのではないかしら、とも感じています。)

また、校正の作業の中でも原文と訳文の照合を行いますが、その初見の段階で上にあげたようなケアレスミスに関わる修正が多そうな訳文は、やはり実際に作業を進めていくと誤訳や訳漏れなどが頻繁に見つかる傾向にあるようです。つまりは、翻訳者さんの見直し作業が間に合わなかったのかな?ということのバロメーターなのかもしれません。

「表記のゆれ」や「スペルのミス」はWordや一太郎の「文書校正」を使うと簡単にチェックが行えます。また、余分なスペースや原語の残滓は「検索と置換」機能を使って「蛍光ペン」で色づけすると発見が容易になります。これからトライアルに挑戦なさる方は、どうぞ少しでもお時間をとって「校正」の作業を多めに行ってみてくださいね。

最後に、記号の「※」(コメ印)と「*」(アスタリスク)について感じていることを少し。

私は英日と日英、両方の案件の校正を行っていますが、記号類についてはその「役割」に関わらず、原文の記号のまま、あるいは原文の記号を半角や全角に変換するだけの翻訳者さんが多いようです。特に「※」は、和文で色々な役割を果たしていますので、形が似ているからといって漫然と「*」(全角)や「*」(半角)に変換してしまうと意味がずれるケースがあります。

ここでは、ざっくりとその違いをまとめてみました。ピンク色のセルは共通する用法、白色のセルは異なる用法です。

和文における
※の役割

英文における
*(アスタリスク)の役割

補足

目印や装飾として、箇条書き、見出し(強調の意味合い)につける。

《例1 見出し》
※検索
画面右上の[Search]に調べたい語を入力してリターンキーを押します。

《例2 箇条書き》
※「※」は「こめじるし」と読みます。
※「米」と間違わないこと。
※箇条書きでは「*」を使うこともあります。

英文では「※」は箇条書きや見出しには使われない(「*」(全角)も同様)。英文の箇条書きではハイフン(‐)またはWordの箇条書き(行頭文字)機能を使用。

目印や装飾として、補足的な記事の頭に付ける(注意の喚起など)。

《例 記事の補足(注意喚起)》
日時:4月15日午後4時
場所:市役所前駅出口A
※雨天決行。

原則として、英文では「※」は注意喚起の意味合いでは使われない(「*」(全角)も英文では用いられない)。

脚注や意味の補足があることを示す。

《例 脚注》
城野卯響子は「きのうきょうこ(※)」と読みますが、実はペンネームです。

※叶恭子(かのうきょうこ)さんの名前に由来。ファンであることがここで判明。

脚注や意味の補足があることを示す。

《例 意味の補足》
T-shirt 20% off Today Only!*

* discount is for good in-store and online

これは「※」と「*」に共通する用法。
和文では「※」や「★」の他、「(※1)」といった※印と数字と括弧類の複合タイプなど様々な表記が用いられています。

引用文などの省略箇所を示す。
(これがアスタリスクの本来の用法→現在では省略記号"…"[ellipsis]の使用が一般的)

《例》
She wrote, “I never ***. I always liked Maud―spelled not ‘with an e’ if you please.”

和文では「……」や(略)などで示される。間違って「※※※」とすると、伏せ字の箇所だと勘違いされることも。

《*の例の和訳》
彼女は「私は絶対に、(略)…ではなかったわ。私はいつも《Maud》の方が好きだったの。いいこと、おしりに《e》がつかない方のつづりよ」と書いた。

名称や語句・文字を明示しない場合に、文字に代えて使用。

《例 数字に代えて使用》
期日までに※※※,※※※円を支払うこと。

名称や語句・文字を明示しない場合に、文字に代えて使用。

《例 伏せ字(品性に欠ける言葉等)》
"M***e!" she yelled.

これは「※」と「*」に共通する用法。
これも和文では「※※」、「●●」、「××」「▲▲」「==」など色々な表記が使われています。

《*の例の和訳》
「く※※ったれ!」と彼女が怒鳴った。【筆者注:このように、※印を使った表記で和訳することはできますが、日本語での伏せ字は、差別表現やかなり強烈な性的表現に対して使われるため、この訳と表記では少し不自然に思えるかもしれません。産業翻訳ではこの手の伏せ字はまずありませんが、出版翻訳だと翻訳者の腕の見せ所かも!】

言葉の強調(俗用。emailなど)

《例 言葉の強調》
You must do it *now*.

和文では「 」、《 》といった括弧類を用いることが多い。

《*の例の和訳》
「今」でしょ!

※お気づきになったこと、不明点や間違いなどご指摘いただけると幸甚に存じます。

参考文献・ウェブサイト

  • 小学館辞典編集部編『句読点、記号・符号活用辞典。』(小学館、2007)
  • デイヴィッド・セイン『英語ライティングワークブック』(DHC、2006)
  • University of Chicago Press Staff (Editor), The Chicago Manual of Style 16th Edition (The University of Chicago, 2010)
  • "How to Use an Asterisk", Quick and Dirty Tips.com
    http://www.quickanddirtytips.com/education/grammar/how-to-use-an-asterisk

 

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